結婚の相性
結婚へのチャンス

新しい時代の花嫁修業

秋山ちえ子さんの意見

新しい時代の花嫁修業について、評論家の秋山ちえ子さんは、こんなふうに考えています。

将来の救いになるもの
だいたい、けいこごとという遊びの考え方がまちがっています。ただのアクセサリーでは無意味。これが、将来の救いになるかも知れないと考えて、種類も選択し、身も入れましょう。それは、夫の病気、未亡人になったときなどに、生計を立てるための救いというばかりではなく、たとえば老後の生活を考えて、ということも、これからの時代には必要なことでしょう。子どもが大きくなったとき、一人とり残され、心に大きな穴があいたように感じるときの救いです。もちろん、現在、それをお金にすることができればいっそうすばらしいことです。しかし、現金を得なくとも、また得る必要がなくとも、たとえば贈り物はみんな自分で作って、となれば経済的にもプラスになってもどってきます。

自分のものをもつことの意味,
遊びでなく徹底してすることが、決して身を立てるという考え方からでないことは申しました。ここで夫婦論になるのですが、夫婦の家庭生活というものは、男女という二つの輪が、ぴたりと重なって一つになるということではありません。それぞれ別個の輪が、互いにだんだん近寄って、重なり合っている部分を多くしていくことです。きっと夫にも妻にも、重なり合わない部分があるはずです。その部分を、夫は社会活動で充実させていきます。ところが妻は、\"重なり合わない部分もある\"ということに気がつきません。女というものは、本能的に、だれかに尽くしたいという美しい気持があるので、夢中で夫や子どもに尽くしている間は、気がつきません。しかし、子どもも大きくなり、尽くすことがなくなってみると、重なり合わない部分にぽっかり穴があきます。この穴を埋めるために、だれにも侵されない、自分のもの、自分の場がぜひほしい。それに集中できるようなーこのためにけいこごとを身につけておく必要があるのです。

これは、というもの
何でもやってみたいものは、どんどんおやりなさい。手芸でもスポーツでも。年をとってからでは、追いつきません。しかし、いろいろとやってみた中で、これはというもの、自分にいちばんよく合うものを発見して、ぜひそれだけは、うんと深くきわめましょう。大げさにいうなら、一生の仕事にしていくくらいの意気ごみで。

生きる自信
人より深く知っているということは、生きる自信になります。これが人生においてはとてもたいせつ。それをもっともっと知りたくなって、本を読む、展覧会も見る、新聞の記事にも特別の関心をもって目を通すーこうなれば、自分とか家庭というワクの中から、社会へまでも視野がひろがっていきます。

花嫁修業はふだんの生活の中にもある
どこかへ行って、何かを習うことだけが、全部だと思わないこと。時間もお金もなくてと、失望したり卑下したりしている娘さんくらい、おかしいことはありません。朝起きて会社へ行くまでの間、自分のへやをどう片づけるか、おかあさんに何を手伝うか、少ない時間をうまく利用するには、へやをきれいに飾るには……それがそのまま主婦としての準備になります。西洋の家庭では、小さな娘が八才にもなると、一人でお菓子が焼けるのです。花嫁学校というものはありませんから、裁縫も料理も家計についても、すべてはおかあさんが先生です。娘にそれだけしつけられるおかあさんの力と人がらもさることながら、それをじょうずに利用する娘も賢明です。日本の家庭でも、母娘がそんなふうでありたいものだと思います。

月謝は出さなくとも
もし、ただ何かやっておいて、家庭生活を明るくしようなどという程度だったら、何も月謝を出して習いに行く必要はありません。今いったように、おかあさんからでも、また雑誌からでも学べるはずです。逆に、もし月謝を出すならば、一つの専門家になるまで、徹底的にやってみることの必要は、前にも申したとおりです。

すすめたい読解力と習字の修業
特にこれをと一つだけ選ぶなら、私は本をよく読むことと、字を習うことをおすすめします。読書の力ー文字を通して読み、理解する力は、若いときにつけておかないと、年をとってからではだめです。この力をつけるのには、何でもよい、できるだけたくさんの本を読むことです。筋を追って楽しむのではなくて、読んでよく理解するという、じっくりした読み方をしてください。私のごく実際的な体験をいうと、終戦後引き揚げてきてから一年くらい、この読解力でだいぶ助かりました。というのは、雑誌の付録をよく読んで、洋裁や編物の力をつけ、これで一年間ほど生計を立てていたのです。娘時代には、見よう見まねでできる、という程度の手の力だったのですが。このことで、しみじみ本を読めばよく理解できる、という力のたいせつさを思いました。次に習字ですが、女性は「字がへたで」とよく言います。主婦がなかなかハガキを書きたがらないのもそのため。台所にいつもハガキを用意して、ちょっと礼状や見舞状をしたためれば、ずいぶん人間関係がすっきりいくと思うのです。字がへただからと、引込み思案でいることは、とても損なのです。字は手すじといいますが、練習すれば、だれでもある程度はうまくなるものです。若いときには、心を落ち着けて練習に集中できる時間も見つけやすいのですから、ぜひ習っておいてください。